有機化学の射程 岩佐 精二 は多くの留学生が配属され研究を推進してくれて感謝いた します。同時に研究室から先方の大学や研究機関と交流協 定を締結し、インターンシップやセミナー開催の際に受け入 れていただき感謝いたします。30 年以上前のアメリカでの 経験や着任してからの交流が今も継続していることを嬉し く思います。震災で原子炉が破壊された時、海外からの移 住の打診は心に響くものがありました。 専門分野の有機化学は、研究課題の創造と実践におい てその射程は、環境科学、農芸科学、センサー技術、分子 生物学、抗体工学などの広汎な分野に関与できると認識す るようになりました。一方でビッグデータは整いつつあります が、特に有機合成におけるAI 化は遅々として進んでいな い現況があります。なぜなら失敗したデータは世に出ないか らです。情報がないのです。負の情報は、ほぼ完全に沈黙 し、情報として問われる機会がほとんどありません。今後、 情報革命の推進力を利用して時代と共に進化していくこと を期待しています。 今思うことは、私には特に人的ネットワークがありません でしたし、求めてもいませんでしたが国境や人種を超えて行 く先々で卓越した英知や科学哲学との邂逅は、僥倖としか 言いようがありませんでした。 最後に、COVID-19 パンデミックの中、その収束に予断 を許さない現況ではありますが出現した環境はリアルであ り受け入れ、対応していくしかありません。この時、あらゆ る階層で技術科学の力が問われます。皆様におかれまして は益々のご活躍を祈念しております。 ありがとうございました。 2022 年 3 月末日の定年退職の区切りに際し、多くの俊英 と巡り合い、支えられて研究と教育に携わることができたこ とを、この場をお借りして感謝を申し上げます。 振り返ると、学位を取得後、オハイオ州立大学で若き俊 英、Prof. V. H. Rawal先生と天然物合成研究を共にし、そ の後、シカゴ大学からのオファーを受け一緒にシカゴに移り ました。気がついたら合わせて5 年弱がすぎていました。さ らに野依良治先生からオファーをいただきERATOプロジ ェクトに参画しました。プロジェクト終了後、1997 年末に本 学に着任し西山久雄先生と共に分子触媒の研究と研究室 運営を進めてきました。本学に着任後、多くの国内外の教 員、研究者、学生、事務の方々の誠意と支援を得て有機化 学分野の研究と教育を微力ながら推進することができまし た。感謝を申し上げます。 基礎研究では医薬品や農薬の合成に重要な新規の分子 触媒(Ru-Pheox)を創出し、市販されるに至り、また国内 外の企業や大学研究者によって利用され論文や特許に発 表されるようになりました。応用研究では ELISA 法とイム ノクロマト法による残留農薬検査キットの開発(知の拠点、 愛知県)、天然物関連ではベトナムの樹木からの抽出、精製 (AUN-SeedNet、JICA) などでいずれも工業化することがで きました。教育、人材育成分野では JENESYS2009-2010、 さくらサイエンスプロジェクト、生命環境工学技術者育成プ ログラム、エレクトロニクス先端融合技術若手研究者育成 プログラムなどのプロジェクトを通じて科学への知的好奇 心や自己実現に向けた一助となればと思い実施に関与させ ていただきました。また国際交流の観点からは、研究室に 退職教員より ※ この原稿は大学広報誌「天伯」No. 153(オンライン第 35 号)に掲載されたものをご本人の了承を得て転載したものである。 24 2023年 第40号 TUT 同窓会報 Prof. Rawal先生を招待 ラオス国立大学にて
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